A:奸策の小鬼 リルマーダー
この島では、はるか昔から、人とホブゴブリンの間で衝突が続いてきた。連中は、道具を使う程度には知性があるものの、畑を耕すほどには、辛抱強くはないし、計画性もない。結果、やることと言えば盗賊まがいの乱暴狼藉さ。中でも凶悪なのが「リルマーダー」という大ぼら吹きさ。言葉巧みに人を騙して罠にかけ、身ぐるみを剥ぐって噂だ。その知性をまっとうに使ってくれれば良いんだけどな。
~ナッツ・クランの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
コルシア島北部、トップラングにトメラとコメラというドワーフの集落がある。
この二つの集落を繋ぐ街道は主に集落同士の交易に利用されていて冶金するための原料となる鉱産物や出来上がった部品などの運搬、取引した金銭や食料等を運ぶのに昔から使われているのだが、周辺は魔物が多く一般人や商人が単独で通るのは危険が多い。また最近この街道を利用する者たちに特に警戒されているのがホブゴブリンの一団による「おいはぎ」だ。一般的にはホブゴブリンはゴブリンの上位亜種おことを指すのだが、コルシア島においては少し違っていて、童話などに出てくる頭の大きな小人をそのままサイズアップしたような容姿をしていて、ゴブリンのような魔獣ではなく魔属性の人型の妖魔と言った方が正確かもしれない。
かつてはトメラの村の北東にそのホブゴブリンの集落があった。当時は友好的とはまでは言えないまでも、お互いに交流があり、交易とまではいかないまでも物々交換に近い取引も行われていたという。それはかなり昔から続く暗黙の了解のようなものでお互いに諍いを避けるため、付かず離れずの関係を保持していくためのシステムのようなもので、表面上は上手くやっていた。
しかし、実際の所、気位の高いドワーフたちは道具を使う程度には知性があるものの、物を作ったり畑を耕すほどには、辛抱強くはないし、計画性もなく、物々交換と言っても荒野で仕留めた野生動物くらいしか差し出せないホブゴブリン達を見下すような差別の目で見ていた。そういう負の感情というものは悪意ある噂話と同じで放っておくとどんどん尾びれ背びれが付き肥大化していくものだ。ついに一部のドワーフがボブゴブリンなどという魔物じみた下賤な輩との付き合いはやめるべきだと声を上げ、それに賛同したドワーフ達によりホブゴブリンの集落は襲撃され、潰された。生き延びたホブゴブリン達もいたが、どこかに逃げ隠れてしまった。
当時ホブゴブリンの集落をまとめていたのがリルマーダーだ。彼は所謂「神童」で他のホブゴブリンよりすべての能力において秀でていた。体つきも他者より大きく力も強い。ドワーフの襲撃に際してはドワーフ側に最後まで食らい付き多くの被害の拡大に貢献した。
襲撃後、散りぢりになった生き残りのホブゴブリンを集めたリルマーダーは集めた生き残りのホブゴブリンと共に街道で追剥の様な事を始めた。人に恨みがあり、能力も持ち合わせない彼らには実際それくらいしか生きる道がないといえば確かにその通りなのだが、だからといって容認できるような話でもない。
あたしはキャリッジを取り囲んだホブゴブリンの一団を倒すと尻もちを付いているボスとおぼしきホブゴブリンに近づき、杖を鼻頭に突き付けて言った。
「あんたがリルマーダー?」
リルマーダーは悔しそうに歯ぎしりしながら上目遣いにあたしを見た。
「だったら…なんだってんだ?」
「好き勝手やり過ぎたわね。あんたに討伐依頼が出てるのよ」
あたしがそう言うとリルマーダーは声を荒げて言った。
「へっ、だったらどうすればよかったんだ?あ?こいつらを抱えてどう生きればいい?集落がなきゃ出来ることと言ったら追剥くらいのもんだ。そもそも先に集落を潰しに来たのはあいつらだ」
あたしは自分の眉間に皺が寄るのを自覚した。
「恨みを抱えている限り道はないわ。そしてどんなに経緯に同情の余地があったとしても、貴方の好き勝手に目を瞑る事は出来ないのよ」
リルマーダーは悔しそうな顔のままそっぽを向いた。
「ただし、あなたが仲間を抱えて生きるためなら過去の恨みなんか捨てられる、というなら力を貸せない事もないわ」
「…どういう事だ?」
「物々交換じゃなく、あなたが今持っているものを使って居場所が作れるって言う話よ」
…それから一年がたった。コルシア島北部、トップラングにトメラとコメラというドワーフの集落がある。この二つの集落を繋ぐ街道は主に集落同士の交易に利用されていて冶金するための原料となる鉱産物や出来上がった部品などの運搬、取引した金銭や食料等を運ぶのに昔から使われているのだが、周辺は魔物が多く一般人や商人が単独で通るのは危険が多い。いや、多かった。
現在その往来の安全はホブゴブリン達から成る護衛隊が商隊を護衛することで確保されている。